『夢十夜』より「第一夜」を読む -1-

「第一夜」の〈語り手〉は、自分のことを「自分」と呼ぶ男ですね。この作品を、朗読(←〈語り手〉を追体験する行為と再定義しました)という読書メソッドで読み深めてまいりましょう(^^♪
話を進めやすくするために、最初に形式段落で14に分けておきましょうか。お手元の原稿に、番号(①〜)を記入しておいてくださいませ。出だしの言葉をかいておきます。
①こんな夢を
②腕組をして
③自分は透き徹る程
④じゃ、
⑤しばらくして、
⑥自分は、
⑦自分は黙って
⑧自分は只
⑨自分はそれから
10 それから星の
11 自分は苔の
12 しばらくすると
13 自分は
14すると石の
まずは1回(でも2回でも何回でもいいですが)最後まで読んで、なにが語られているのかを理解しましょう。
【女の臨終に居合わせた男が、女に言われた通り100年も女を待ち続けるという、夢の話だな〜】
といったところでしょうか。初読の感想としては、(なんだかわけのわからない話だわ、まぁ夢だものね〜)とか、(100年も待ち続けるなんて、ほんと暇な男だ)とか、(女への一途な思いが通じて、百合になった女と再会できたのね、よかった)とか、ほかにもいろいろあると思いますが、読み深めると、変わりますよ♪
なにが語られているかをざっと理解したところで、いよいよ〈語り手〉に注目する朗読(=〈語り手〉を追体験する読書行為としての朗読)のスタートです。
なにが語られているかに加えて、〈語り手〉がどのように語っているかを、ていねいにみてまいりましょう。
具体的にどうすればいいかといえば…
手がかりは、目の前にある「第一夜」の文字列だけですから、しっかり観察します。
いかがですか?この「第一夜」の〈語り手〉は、文字(漢字・ひらがな)と記号(句読点・カギ括弧「」・ダッシュー)とで語っていますね。カギ括弧の中は女の発話で、それ以外はすべてこの男が語っていますね。
あ!嘘をつきました(^^;
14の最後の行のカギ括弧の中は女の発話じゃないですね、ごめんなさい!男の言葉、なぜここだけカギ括弧がついてるのだろう?…保留…
あ!⑤⑥⑦でカギ括弧が目立っていませんか?
なぜだろう?
この男は、①では目覚めていて、②③④では半ば夢の中にいて、⑤⑥⑦はすっかり夢の中にいるような…、②③④はぼんやりしたモノクロで、⑤⑥⑦はカラーのような…
このような印象を持ちました。どうしてかといえば…、カギ括弧の有無なのでしょうね!
この男は、②③④では、女に直接発話させませんよね(女の発話には鍵かっこが付いていません)。女の声をぼんやりと聞いているのでしょうか。女が言った言葉を、男は、自分の語りの中で、そのまま自分の声で繰り返しています。それに対して⑤⑥⑦では、男の声ではなく、女の声が、その場・空間に、静かに響きますね(女の発話には鍵かっこが付いています)。⑤から、女の存在感がぐっと増すような気がします。いかがでしょうか♪
このカギ括弧の有無によって、この〈語り手〉の男は、わたしたちになにを仕掛けたのでしょうね?
①でわたしたち読者と現実世界を共有し、②③④でわたしたち読者をじょうずに彼の夢の世界へと導き入れ、⑤以降でわたしたち読者に彼の夢の世界をありありと体験させようとした、のかもしれませんね(^^♪
優れた小説の〈語り手〉は、わたしたち読者に、鮮烈な体験を促してくれます。引き続き「〈語り手〉を追体験する朗読」を愉しんで、他人事ではなく自分ごととして、「第一夜」の世界を体験してまいりましょう!
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