永瀬清子さんの「あけがたにくる人よ」- 5 -（対話バージョン）

Y：言葉を思い出そうとするのは、違うんですね。

M：もちろんです(^^)

この詩の言葉たちは、ながこさんの体験とともに生まれています。だから、その体験を置き去りにするのはいただけませんね。

Y：なるほどよくわかります！

「文学作品の言葉は、体験とともにある」と教えていただきましたよね。

M：その通り。言葉だけを思い出そうとするのはNGですよ。

Y：わたし、ながこさんの体験を思い出します。えーっと…

ながこさんは、「私の所へ」って言ったことで、自分自身を意識してしまって、「あら…私、こんなに老いているわ。あの人は青年のままなのに」と思ってしまって、心があたふたしてしまったんでした。それで、自分の老いと折り合いをつけようとして、人生を振り返っていたんだ！

M：いい調子ですね。

Y：ながこさんの人生を振り返ると…

あ、イメージが浮かんできました。険しい山と坂が見えてきました。

人生の山坂はきびしく

M：百合子さんは、「人生の山坂」という言葉が生まれる体験をしている。ながこさんは、「一生の山坂」という言葉が生まれる体験をしています。体験が少し違うのかも…

Y：きっと違う体験をしてますよね。

どう違うんだろう？

わたしの体験とながこさんの体験の違いってなんだろう？

M：いいですね〜。

「一生」と「人生」。

言葉の違いから、体験の違いを推察しましょうか。

Y：はい。これが、脳を耕す作業ですよね。

んー…「一生」のほうが、唯一無二の自分だけの人生っていう意識を、強く持っているように感じます。

M：そうかもしれませんね。

Y：では、その意識を持って体験したいと思います。

一生の山坂はきびしく

M：いいですね！ながこさんに対する理解が深まって、ながこさんと少しずつ仲良くなっていきますね(^^)

さて。ながこさんは、山坂の色も見ていました。

Y：そうでした！ながこさんが見ている山と坂の色は、青ではなくて、蒼でした。

一生の蒼い山坂はきびしく

M：いいですね〜。

いま百合子さんは、唯一無二の自分の人生を振り返り、蒼い山と坂を見た。だから「一生の蒼い山坂」という言葉が生まれたんですね。

Y：はい。そうです。

M：ながこさんの体験は、百合子さんの体験とは少し違うようですよ。

まず、ぼんやりとモノクロの山と坂を見たのかな？そして、その山坂が蒼く染まっていくようなイメージを抱いたのかもしれませんね。

Y：ながこさんと同じ景色を見てみます。

一生の山坂は蒼く染まってきびしく

M：いいですよ。まだ少しだけ体験のズレがあるようです。

ながこさんは、染まっていく様子より、蒼い色そのものが気になっているんだと思います。

Y：あ、わたしは山坂が染まる変化がすごく気になっていました！

でも、ながこさんは違うんですね…。

「染まって」という言葉は、ながこさんからは生まれませんね。

一生の山坂は蒼くきびしく

M：ながこさんがどんな体験をしているのかが、より繊細に理解できましたね♪

Y：はい。ながこさんとの良い関係を、コツコツと築いているようで…なんだか幸せな気持ちです(^^)

M：そうなんですよね。自分の内面が満ちてくるような幸せを感じますよね。

さて、体験のズレがもう少しだけありました。ながこさんからは、「たとえようもなく」という言葉も生まれています。

Y：あ！そうでした！

わたしは、きびしいって感じたら、そのまますぐ発話しちゃうんですね。

M：自分に気づけるのは、百合子さん、とてもステキなことですよ。

詩や小説を読むって、〈語り手〉と仲良くなる旅ですが、それと同時に、自分と出逢う旅なんですね♪

Y：きびしいと感じて、わたしはすぐに言葉にしたけれど、ながこさんは、きびしいと感じたとき、どのようにきびしいのか考えたんだ…

M：そうかもしれませんね。実際、“なにか”にたとえようとして、たとえが見つからなかったのかもしれません。

Y：だから、「たとえようもなくきびしく」なんですね…

ながこさんの体験と同じ体験を試みてみます！

一生の山坂は蒼くたとえようもなくきびしく

M：…聞いていて、百合子さんは、用意した言葉を、なぞっているのではないな。いま、百合子さんから、言葉が生まれているな。そう感じました(^^)

Y：はい。ながこさんと同じ体験ができて、言葉が、わたしから生まれてきました！

すっかりながこさんになれた気分です(^^♪

M：楽しいですよね♪

Y：はい。ながこさんと同じように思考する体験をしたら、「一生の山坂は蒼くたとえようもなくきびしく」という言葉が、わたしから生まれてきたんです！

M：百合子さん、素晴らしい取り組みです。

身体も使ってコツコツと時間とエネルギーを積み重ねて、ながこさんの体験を見つけましたね。なんて尊いことでしょう！

Y：どうしても言葉を覚えてしまいたくなるんです。だけど、なるべく覚えないようにと思って、言葉を覚えずに、体験することを心がけました(^^)

M：ステキですね。言葉とともにある体験を共有することが大事。そうでないと、上っ面な表面だけの理解やひとりよがりの理解にとどまってしまいがちですからね。

Y：同じ体験をしているつもりでも、ながこさんとわたしとは違う人間なんですよね。だから、体験にはズレがあるし、わたしから生まれてくる言葉は、当然、ながこさんとは違う。

…以前は、言葉を間違えたらイヤだなって思っていましたが、「間違い」ではなくて「違い」だし、違うことが、尊いんですね！

M：百合子さん、その通りです！自分とながこさんとは違うことを受け入れたうえで、ながこさんとの距離を少しずつ縮めていきましょう。一足飛びで他者を理解できると思わないことが大切なのでしょうね…

Y：ゆっくりですが、ながこさんの体験をただしく理解できていくのがうれしいです(^^)

M：ゆっくりなのがいいんです！

ながこさんを思う時間、ながこさんの体験を思う時間を、毎日少しでいいからコツコツ積み重ねましょう。一足飛びはありませんよ。ながこさんに対する理解を、ゆっくりのんびりと深めてまいりましょう(^^♪