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序文 ようやく最終稿(^^)

更新日:3月28日


新しい朗読ー語り手の体験を生きる読書法ー

【序文】


かつて朗読は、声を出して物語を伝える行為とされ、多くの人が「朗読=音声表現」と捉えてきました。ここであえて過去形を用いたのは、その時代背景を理解することで、現代における新たなアプローチの意義が浮き彫りになると考えたからです。


日本では明治時代半ばに小説という新しい文学ジャンルが登場し、作者が意図的に設定した「語り手」によって物語が紡がれる構造が確立されました。これにより、文学の言葉は単なる情報伝達の道具から、語り手の体験や感情を伴う奥深いものへと変化し、読者は虚構世界に没入することを求められるようになったのです。


それに伴って、音声表現としての朗読は次第に影を潜め、個々の読者が自分のペースで文学作品の世界に浸る黙読が主流となりました。しかし、黙読は読者を虚構世界へと誘う一方で、作品の受け取り方に個人差が生じるという課題もはらんでいるのではないでしょうか。


こうした背景を踏まえて、「新しい朗読」という新たな読書法を提案します。新しい朗読とは、従来の朗読のように音声表現を追求するものではなく、語り手とともに虚構世界を生きることを目指す営みです。朗読者は、身体・五感・脳をフル活用して語り手の体験を探り、同じ体験を試みることで、語り手に近づいていきます。その際、朗読者から生まれる音声は、「どのような体験をしているのか」を反映する(語り手の追体験を試みた)結果であり、目的ではありません。音声にとらわれることなく、語り手と一体になって虚構世界を生きる体験こそが、新しい朗読の核心なのです。


デジタル化やメディア環境の変化により、読書形態も多様化しています。この変化の中で、語り手の体験に深く接続する読書法が求められるようになってきました。「新しい朗読」は、読者がより主体的に虚構世界を生きる手段となり、従来の読書体験に新たな次元を加えるものです。朗読レッスンや朗読会を通じて、皆さまとともに体験を深めていけることを心からたのしみにしています。


なお、「朗読から黙読への移行」の時代背景については、マングェル(『読書の歴史』)、シャルティエ & カヴァッロ(『読むことの歴史』)、前田愛(『近代読者の成立』)などを参考にしました。

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Salon de Marikoのロゴは、ハートの形をモチーフにしています。文学作品を味わう過程と時間を、朗読で、人と共にすることで、心(脳)が豊かに育つことを表しています。また「サロン」は、人の温かみのある上質な学びの時空間を表しています。

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